トルコとシリアの全面戦争は無くなったとみてよい。

現在、仕事の小休憩中です。


そもそも事の始まりは、シリアの少数民族クルド人の組織「人民防衛部隊」(YPG)は2011年からのシリア内戦で勢力を伸ばし、「イスラーム国(IS)からの防衛」を大義名分にシリア北部を制圧した。もともとクルド人はシリアからの分離独立を目指しており、いわば内戦の混乱のなか、本来の目標に近い状態を作り出した。


しかし、これはシリア政府だけでなくトルコ政府にとっても無視できない。クルド人はトルコ国内にもおり、やはり分離独立を目指している。シリアのクルド人が半ば独立することは、トルコのクルド人を触発しかねない。


この危機感のもと、トルコ軍はこれまでもしばしばシリアに侵入し、ISだけでなくYPGとも衝突。一方、NATO同盟国のアメリカはIS対策としてだけでなく、もともと関係の悪かったアサド大統領率いるシリア政府を封じ込めるためにYPGを支援し、(シリア政府の許可のないまま)アメリカ軍をシリアに駐留させてきたが、トルコ政府はこれをくり返し批判してきた。


そして、シリア撤退を大統領選の公約にしていたトランプ氏は、以前からたびたび撤退を示唆してきた。マティス国防長官やボルトン大統領補佐官など、これに抵抗する高官は相次いで政権を去った。


こうして反対派を排除したトランプ政権は、トルコ軍の進撃に合わせ、13日にシリアから1000人のアメリカ兵を撤退させる方針を発表。シリア内戦で利用してきたクルド人を見限ったという悪評を避けるため、「同盟国と戦争はできない」「トルコには制裁を加える」と息巻いているが、トランプ氏とトルコのエルドアン大統領に利害の一致があったことは確かだと思います。


しかし、トルコの侵攻を受け、事実上のボディーガードだったアメリカ軍を失ったクルド人が、これまで対立してきたシリア政府やロシアに接近したことだ。シリア政府はクルド人の分離独立を認めてこなかったが、14日にはクルド人の要請を受け、その支援のために要衝マンビジに入った。シリア政府の後ろ盾であるロシアも、これを支持している。


トルコはアメリカの同盟国だが、人権問題などをめぐって2000年代から関係が冷却化。その間にロシアとの関係を深め、トルコは今年7月にロシア製最新鋭地対空ミサイルS-400を導入し、アメリカを激怒させた。ところが、今回のクルド人問題で、トルコはトランプ政権から制裁の脅しを受けながらも、結果的にはアメリカと利害を一致させている。


こうした綱渡りを演じることで、トルコはアメリカからだけでなくロシアからも身を守っている。


改めて確認すれば、トルコ政府の最優先事項は大きく2つある。


まず、YPGがトルコ国内のクルド人を触発する状況を封じる事、そして国内に300万人以上いるシリア難民の帰還を促す事です。


つまり、シリアのクルド人が半ば独立している状態がなくなり、シリア政府が全土を掌握すれば、内戦が終結したことになり、トルコの負担となっている難民の帰還にも弾みがつく。これは要するに、シリアを内戦前の状態にリセットすることを意味します。


そして、シリア政府もクルド人の独立を決して認めていない。また、シリア政府が全土を回復すれば、ここを中東の足場にするロシアにとっても安心材料になる。そして、やはり国内にクルド人問題を抱え、さらにシリア内戦でシリア政府を支援してきた隣国イランにとっても悪い話ではない。


落し所は「クルド人を独立させない事」だと思います。


ロシアの支援もあってシリア政府は今やクルド人支配地域以外のほとんどを手中に収めている。今更「アサド退陣」がほぼ不可能なら、欧米諸国が「シリア政府によるIS掃討」をセカンド・ベストと捉えても不思議ではありません。


クルド人がシリア政府の保護下に収まることは、関係各国にとっての落とし所になるでしょう。


しかし、人権問題的にはあまりにクルド人が可哀相です・・・。


なので、トルコ軍がシリア領内に入り、クルド人と衝突し始めたが、クルド人を殲滅させるほど徹底的な攻撃は想定できません。


むしろ、トルコの攻撃を恐れてクルド人がシリア軍やロシアに接近したことで、トルコの最優先の目標はすでに達成されており、適当なところで矛を収める公算が高いと思われます。